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2025/12/09 17:01 ~ なし

特別養護老人ホームの大規模改修でインテリアを更新|認知症ケアに配慮した空間づくりとカビ対策

はじめに

 特別養護老人ホーム(特養)は、要介護3以上の高齢者が長期にわたり生活する場であり、建物の老朽化や内装の不具合が利用者のQOL(生活の質)に大きく影響します。
 今回、当社が担当している特養では、カビの発生や壁紙の浮きなどの問題が顕著になり、インテリアの部分的な改修を進めています。

 改修には多額の費用が必要ですが、本件では 「大規模修繕補助金」 を活用して事業を進めています。
※補助金制度は自治体によって名称や要件が異なります。

特養インテリアに求められる考え方

 既存のインテリアは「白い壁+ウォルナット調の床・腰壁」という上品な構成で統一されていました。しかし、均質的で“ホテルのような空間”は、特養の入居者にとっては家庭的ではなく、居場所感を得にくいという課題があります。

 特養の利用者は多くが認知症を併発しており、見当識障害(時間・場所・人がわからなくなる症状)によって不安や問題行動が起きることがあります。
そのため、インテリアは以下が重要になります。
 
 ・居場所がわかりやすい
 ・
方向性がつかみやすい
 ・
家庭的で安心できる雰囲気である

今回の改修では、この考え方に基づき空間を再構成していきます。

共有空間(共同生活室)のインテリア改善

 ユニット型特養では、共同生活室がリビング・ダイニングとして利用されます。しかし、白を基調とした均質なインテリアでは方向感覚がつかみにくく、「自分の居室はどちら側にあるのか」が分からなくなる可能性があります。

▶ 南北の方角を“色”で表現

 当施設の立地は 南に海、北に山 という特徴があるため、これをインテリアに取り入れました。
 
 ・
南面:海をイメージしたブルートーンのアクセントクロス
 ・
北面:山をイメージしたグリーントーンのアクセントクロス

 こうした色使いにより、利用者は無意識のうちに方向を把握し、自室への帰り道を迷いにくくなる効果が期待できます。

※色彩と認知症ケアの関係性は多くの研究で指摘されており、コントラストをつけることは安全性向上にも有効とされています。

居室インテリアの改善

 特養の居室は、利用者にとって 「自宅の寝室」そのものという感覚が重要です。
ホテルライクな均一デザインよりも、家庭的な雰囲気の方が自分の居場所として認識しやすいとされています。

▶ 木目調クロスによる“家庭の部屋らしさ”

今回はやや表情のある木目調の壁紙を採用し、

 ・「自分の部屋に帰ってきた感覚」
 ・「落ち着いて過ごせる環境」

を整えていきます。

左:現在の居室
右:居室更新案

深刻だったカビ問題とその原因

当施設では、壁・天井にカビが多く見られ、当初は雨漏りを疑っていました。

しかし、天井を解体して内部を確認したところ、

▶ 原因は「エアコンによる結露」

であることが判明しました。

❚ 結露が発生する仕組み

 ・冷房運転時、エアコン内部や冷媒管が冷える
 ・湿度の高い夏の空気が接触する
 ・飽和点を下回り水滴(結露)が発生

特養のように 24時間エアコンを連続運転する環境では結露リスクが特に高いのが実情です。

▶ エントランスの結露リスク

 外気を頻繁に取り込むエントランスは湿気が流入しやすく、結露が起きやすい環境となります。
今回は天井のカビが深刻だったため、内装材の更新も合わせて実施します。

▶ 再発防止策

・冷房の設定温度を下げ過ぎない(夜間は28〜を推奨)

・外気の急流入がある部屋の温度管理を慎重に行う

これらの運用・設備対応により、カビの再発を防ぐことができます。

左:現在のエントランス
右:エントランス更新案

まとめ

特養の大規模改修では、単に劣化部分を直すだけでなく、認知症ケアに寄り添った環境改善が重要です。

今回のプロジェクトでは、

・方向性を示す色彩計画
・家庭的な居室づくり
・結露・カビ対策
・補助金活用による現実的な工事計画

を組み合わせ、利用者が安心して暮らせる空間を目指しています。

特養や介護施設のインテリア・改修でお困りの方は、お気軽にご相談ください。